建設業許可の取得にはいくつかの要件が課されており、そのうちの1つが「経営管理責任者」の存在です。
略して「経管(ケイカン)」と呼ぶことも多いので、こちらの名称で聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか。
経営管理責任者は誰でもよいわけではなく、一定の要件を満たさなければなりません。
この記事では、経営管理責任者の要件について詳しく解説します。
10年職人として働いていた会社を辞めて、去年、自分で会社を立ち上げました。
建設業許可は取れそうでしょうか?
経営管理責任者の要件を満たすのが難しいかもしれません。
詳しく確認していきましょう。
建設業許可の取得に必要は5つの要件とは
建設業許可を取得するには、必須となる要件を満たさなければなりません。
建設業許可取得のための主な要件は、次の5点です。
なお、建設業許可には「一般建設業」のほか、元請けとして工事を請けてより下請けに多く発注できる「特定建設業」が存在し、特定建設業の許可要件は一般建設業よりも厳しくなっています。
ここでは、初めて許可を取得する建設業者様の多くが申請することになる「一般建設業」の前提で見ていきましょう。
経営管理責任者が存在すること
建設業許可を取得するには、許可を取得しようとする法人の役員(個人事業の場合には、原則として個人事業主)のなかに、経営管理責任者が存在しなければなりません。
経営管理責任者となることができるのは、原則として建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者としての経験がある人です。
たとえば、個人事業で5年以上建設業を営んでいた人や、建設業を営む法人で5年以上役員(監査など役以外)を務めていた人がこれに該当します。
これについては、後ほどより詳しく解説します。
営業所に常勤する専任技術者が存在すること
建設業許可を取得するには、建設業法上の営業所ごとに常勤の専任技術者を配置しなければなりません。
一般建設業の場合には、次の人が専任技術者としての要件を満たします。
- 所定の資格を保有している者
- 所定学科の高校または大学卒業後、5年または3年以上の実務経験のある者
- 許可を取得しようとする業種について10年以上の実務経験のある者
許可申請をする場合には、要件を満たす専任技術者がいるかどうかも確認しておきましょう。
財産的基礎を有すること
工事を依頼していた建設業者がいきなり倒産してしまったり、お金がないことを理由に杜撰な工事をされてしまったりしては、施主さんなど関係者が困ってしまいます。
そのため、建設業許可を取得するには財産的な基礎を有することが必要です。
一般建設業の場合には、申請日の直前の決算において、自己資本が 500万円以上であれば、この要件を満たします。
直前決算の自己資本が500万円未満であったとしても、500万円以上が預金された残高証明書を提示できれば問題ありません。
欠格要件に該当しないこと
建設業許可には、欠格要件(1つでも当てはまってしまったら許可がされない条件)が定められています。
建設業者自身や役員がこれらに1つでも該当してしまうと、許可がおりません。
主な欠格要件は、次のとおりです。
- 破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者
- 建設業許可を取り消されたり建設業法違反で処分されたりしてから5年を経過しない者
- 建設業許可の営業停止中である者
- 禁錮以上の刑に処せられてから5年を経過しない者
- 傷害や暴行など一定の罪で罰金刑に処されてから5年を経過しない者
- 暴力団員等
以上は大まかに記載していますので、気になる要件がある場合にはより詳細な要件をチェックし、該当しないかどうか確認しておきましょう。
必要な社会保険に加入していること
以前は、社会保険の加入は許可要件ではありませんでした。
しかし、令和2年10月1日以降は、適切な社会保険への加入が許可の要件となっています。
加入すべき社会保険は、それぞれ次のとおりです。
- 法人:健康保険、厚生年金、雇用保険
- 常時使用する従業員が5人以上の個人事業主:健康保険、厚生年金、雇用保険
- 常時使用する従業員が5人未満の個人事業主:国民健康保険、国民年金、雇用保険
- 1人親方:国民健康保険と国民年金
適切な保険に入っていない場合には、許可申請前に保険の加入手続きを済ませておきましょう。
また、許可の要件以前に、最近では社会保険に加入していないと入ることができない現場が少なくありませんので、いずれにしても適切な社会保険への加入は必須です。
経営管理責任者になるための要件
建設業における経営管理責任者は、原則として次の要件を満たさなければなりません。
現在の役職と過去の経験とに分けて見ていきましょう。
なお、下記のほかに複数人の経験を組み合わせて要件を満たす方法もありますが、一から許可申請をする事業者がこの方法で要件を満たすことは容易ではありません。
そのため、ここでは解説を省略します。
経営管理責任者の現在の役職
経営管理責任者は、その建設業者の「経営」を管理する人です。
そのため、経営管理責任者は許可を取得する建設業者において、原則として次の役職でなければなりません。
- 個人事業主の場合:個人事業主または登記された支配人
- 法人の場合:常勤の役員(監査役などは不可)
僕が経営する「株式会社建田」の役員は今のところ僕1人だから、経営管理責任者になれる可能性があるのは僕だけなんですね。
経営管理責任者に求められる過去の経験
経営管理責任者は、建設業における経営を適切に管理しなければなりません。
そのため、次に記載したうち、いずれかの過去の経験が求められます。
- 建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者としての経験
- 建設業に関し5年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者(経営業務を執行する権限の委任を受けた者に限る。)として経営業務を管理した経験を有する者
- 建設業に関し6年以上経営業務の管理責任者に準ずる地位にある者として経営業務の管理責任者を補佐する業務に従事した経験を有する者
このうち、「2」や「3」で要件を満たすことは例外であり、原則として「1」で考えておくとよいでしょう。
たとえば次のようなケースでは、上記「1」の要件を満たすことができます。
- いま役員を務めている会社(建設業者)で、5年以上役員を務めている
- いま役員を務めている会社(建設業者)はまだ設立して2年だが、その前に3年以上個人事業で建設業を営んでいた
- いま役員を務めている会社(建設業者)の役員となる前に、他の建設業者の役員をしていた
なお、役員経験を積んだ会社や個人事業は建設業を営んでいさえすればよく、建設業許可を取得していたことまでは求められません。
現場経験年数はカウントできない
経営管理責任者に求められる経験は、「建設業の経営を管理」していた経験です。
そのため、いくら長年現場に出て現場の工事について熟知していたとしても、現場の経験年数はカウントすることができません。
具体的には、役員を務めていた会社の登記簿謄本などで確認がなされます。
一方で、専任技術者としては現場の経験年数が重視されます。
専任技術者に求められるのは、技術的な知識や経験であるためです。
新たに設立した会社で建設業許可を取得するには
建設業を営む法人での役員経験や個人事業主としての経験がなく、一から会社を立ち上げた場合、建設業許可を取得するにはどうすればよいのでしょうか。
ここでは、2つの方法を解説します。
方法1:経験を積み、5年後に建設業許可を申請する
王道ともいえる方法が、5年間待つ、ということです。
会社を立ち上げてその会社で建設業を営んでいれば、その会社の役員は5年後に経営管理責任者としての要件を満たせることとなるためです。
ただし、この場合には次の2点に注意しましょう。
契約書や見積書、請求書などをきちんと保管する
5年後の建設業許可申請にあたっては、その会社が本当に建設業を営んでいたことの証拠の提示が必要です。
仮に会社の役員ではあったとしても、その会社が建設業をおこなっていないのであれば、建設業を営む会社で5年以上の経営管理経験を積んだとは言えないためです。
その際に必要となる証拠書類は都道府県によって異なりますが、愛知県の場合には2022年現在、原則として次のいずれかの書類が求められています。
- 契約書
- 注文書+それに対応する請書控
- 注文書、請書控、請求書のいずれか+入金が明確に分かるもの(「通帳」または「預金取引明細票」など第三者機関が発行したもの)
いくら工事を受注していたと口頭で主張しても、証拠書類がなければ経験としてカウントすることはできません。
親しい元請さんとの間では口頭で工事の発注がおこなわれる場合もあるかと思いますが、許可に備えてきちんと書類を残しておくようにしましょう。
会社の事業目的に適切な文言を入れておく
会社の事業目的は、その会社がどのような事業を営んでいるかを表しています。
そのため、建設業を営むのであれば、はじめからきちんと建設業を営んでいることが分かるような文言を入れておきましょう。
許可申請に際してどのような文言が求められるのかは、都道府県によって異なります。
愛知県の場合には、建設業の業種ごとに、たとえば「大工工事」「左官工事」など具体的に記載しておくとよいでしょう。
方法2:要件を満たす人を役員に迎え入れる
5年を待たずに許可を取得したい場合には、経営管理責任者の要件を満たす人を、新たに役員に迎え入れることを検討しましょう。
法人の場合には、役員(監査役など以外)に経営管理責任者の要件を満たす人がいればよく、必ずしも代表取締役が経営管理責任者である必要はありません。
そのため、5年以上個人事業で建設業を営んでいた人か、5年以上建設業を営む会社で役員を務めていた人を自社の役員として迎え入れることで、経営管理責任者の要件を満たすことが可能となります。
ただし、その場合には次の点に注意しましょう。
自社に常勤してもらう必要がある
経営管理責任者は、自社の常勤役員でなければなりません。
つまり、次のような人は、常勤の要件を満たせないためNGです。
- 他社の経営管理責任者になっている人
- 他社の専任技術者や現場の配置技術者になっている人
- ほかに本業を持っている人
- 建築士事務所を管理する建築士や宅地建物取引業者の専任の宅地建物取引士など他の法令で専任を要するものとして選任されている人
名義借りは言語道断
経営管理責任者の要件を満たす人は自分で建設業を営んでいる人が多く、簡単に見つかるものではないでしょう。
しかし、だからといって名義借りなどは言語道断です。
仮に名義借りで申請をした場合には虚偽申請に該当し、6か月以下の懲役または100万円以下の罰金に処される可能性があります。
さらに、これにより許可が取り消されるうえ、その後5年間は欠格要件に該当するため建設業許可を取ることができません。
名義借りは、絶対におこなわないようにしましょう。
過去の経験が証明できるかどうかに注意する
いくら過去に建設業の個人事業経験があったり役員経験があったとしても、その証拠書類がなければ許可申請をすることは困難です。
特に個人事業主の場合には、確定申告を適切におこなっていなかったり、確定申告をしていても控えを保存していなかったりするケースが散見されます。
年数が経ちすぎていればもはや税務署から申告の証拠を取り寄せることも困難であり、せっかく経験があっても証明できない事態になりかねません。
経営管理責任者候補として新たに役員を迎え入れる場合には、過去の経験が証明できるかどうかも注意しておくとよいでしょう。
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